フィリピンのドゥテルテ大統領が、COVID-19の感染拡大を止めるべく、首都・マニラのあるルソン島の実質的な封鎖を決めたのは、2020年3月16日。
当時、フィリピン国内の感染者数は140人ほどに過ぎなかった。総感染者数が5ケタに届きそう、というタイミングになってようやく地域の封鎖を決めたイタリアなんかと比べると、フィリピン政府の判断は奇異に映るかもしれない。
なぜ、フィリピンの政府はこれほど早いタイミングで地域の封鎖を決めたのだろう?
これを読み解く鍵は、フィリピンの医療体制にあると考えられる。フィリピンの医療リソースは、おしなべて少ないのだ。
たとえば病床数は、フィリピンの場合、1000人あたり、1.1しかない(2018年時点)。
他方、COVID-19の震源地となった中国の場合、1000人あたりの病床数は6ある。
また、このたびの感染拡大で医療崩壊を招いたと言われるイタリアは、3.2だ。
フィリピンの少なさは際立つ。
患者の治療にあたる医療従事者師の数も、心もとない。フィリピンの医師は、国民1000人あたり、1.2人だ。OECD加盟国の平均3.5人と比べると、1/3ほどしかない。
そしてさらに付け加えると、フィリピンの医療水準はムラがあり、都市部と地方都市では提供できる医療水準に大きな差が存在する、という事情もある。
医療水準は,都市部と地方の格差が大きく,マニラ首都圏では近代的な設備を整えた私立総合病院で最先端の医療を受けることも可能ですが,地方都市では医療施設の老朽化が進んでいるほか,衛生状態も悪く,安心して医療を受けられる水準には達していません。
引用元:外務省:世界の医療事情
こういった状況であるがゆえ、感染者数の絶対数が少ないからといって、判断を渋っていた場合、フィリピンでも感染者の爆発的な増加から、やがて医療システムが立ちいかなくなっていた可能性は大きい。そしてそうなってしまうと、本来なら救える人も、救えなくなるという事態に陥るリスクがあった。この意味で、政府の判断は賢明なものだったと言える。
幸い、フィリピンの感染者数は伸びているものの、いまのところイタリアや米国ほどの勢いはない。早い段階から封鎖を決めた効果が出ているのかもしれない。
こうして時間を稼いでいる間に、政府は病床の確保も進めている。
フィリピンが足もとの困難を切り抜けるまで、まだ時間はかかる。けれど、いつの日か困難を克服するときがやってくることも、おそらく間違いない……はず。
コメント